旭川エリアの雪に魅せられた3人が語る
星野佳路×佐々木大輔×若山泰生

前編
北海道パウダーベルトという構想と山を滑るマナー(3/3)
若山
一回ガイドツアー入ってルートのログ取っちゃうお客さんとかいるよね。
大輔
スキーは跡が残りますからね~。僕はスキーの跡を消したいんです。
星野
なるほど。
大輔
北海道のバックカントリーガイドの数も少しずつ増えてきています。でも外国人を受け入れられる語学のある人が少ないので、日本の文化を含めて案内できる人がまだまだ必要ですよね。それと、北海道のガイドと海外のガイドで連携をとるという活動も進めています。例えば事故が起きた時に、公的な救助が来るまで自分たちで対応しなければならないので、協力してレスキューキットを用意して富良野岳、富良野スキー場、旭岳、ニセコなどに置いています。怪我人を搬送する装備や、山の中で暖をとったり泊まる装備だったり。外国のカンパニーと日本のガイドで情報を共有しあったりしています。

海外経験豊富な佐々木大輔から見ても、北海道パウダーベルトのエリアの雪質は世界有数。JAPOWを越えて「羽パウ」と呼ばれるほど。

若山
そういった連携は大切だよね。トマムはガイドツアーないですか?
星野
中島力くんがトマム近郊のバックカントリーツアーをやってますね。彼はもともとアルツ磐梯にいたんです。福島の原発事故でアルツ磐梯を休業した時、1年間どうにもならなくて彼には北海道に異動してもらいました。ノウハウを北海道で貯めて、最終的にはまた福島で経験を活かしてもらいたいと思ってるんです。
若山
アルツ磐梯と猫魔のルートも繋がるんですよね?
星野
アルツ磐梯から猫魔へのルートは雪上徒歩ルートというのを開設しました。裏磐梯にはものすごく綺麗なところがたくさんあるんです。冬もインバウンドは誰もいない。旭川以上に人が少ない。飲み屋街は会津若松があります。最高ですよ、酒蔵もあるし、雪もいいし。外国人も少ないので、そういう意味では日本人にとってのバックカントリーの聖地になれるかもしれない。
大輔
なるほど、ある意味聖域ですね!

北海道に劣らないミクロファインスノーが降り積もる猫魔は、パウダーの穴場的存在。標高1000mの北斜面という好立地でロングシーズン楽しめる。

星野
変にトラバースする人もいないしね。猫魔はベースの標高が高いし、北斜面で雪が残るし、最高にいいところですよ。私の観光キャリアの中で、原発事故による風評被害からの再生というのは一番大きなチャレンジであり、長い時間がかかるのでライフワークになりつつある。中島力くんのような人たちが、最後はあそこで良さをアピールできるガイドになってほしいと思っているんです。そういう意味では北海道は恵まれていますよ。
大輔
そうですね。でも混んでる。
若山
いや、でも本州の大行列に比べたら、北海道は全然空いてるよ。正月はリフト券買うのに2時間とか並んだり、昼食の店にも入れないとかね。
星野
雪山だけでない悩みですね。オーバーツーリズムというやつですね。
若山
インバウンドに熱心で、日本人にフォーカスしなさすぎて、というのも問題になってるんですよね。
星野
日本の観光の全体需要を見てもらうと、未だにインバウンドは15%だけなんですよ。2019年の消費額で4.8兆円です。22兆円は日本人による国内観光なんです。日本人が圧倒的に多いというのはしばらく変わってない。そういう意味では日本人に嫌われちゃダメですね。22兆円も国内に需要を抱えてる国って珍しいんですよ。
大輔
意外ですね。日本人がそんなに旅行しているとは。
星野
最近、若い人が旅行しないとか、人口減少とかでちょっと消費額が下がるときがあるんです。2014年、2018年がそうでした。日本人の旅行消費減少額がインバウンドの成長より大きくなり、結局トータルの観光消費額が落ちたんですよ。それを私は「日本観光の不都合の真実」と呼んでいます。2025年に今の観光消費の担い手である団塊の世代が後期高齢者になり、どうしても旅行参加率は落ちますから、より頻繁にこれは起こります。インバウンドが増えて、日本人が減って、相殺されてトータルで減っていく。そうすると日本の地方の観光地はおそらく格差が広がりますね。インバウンドが増えてると国が発表しているのに、なぜか我が村が潤っていない、ということがどんどん増えてくるでしょう。そういう長期的な課題を解決するための準備を今からしていかないといけない。
若山
なるほど。インバウンドが少ない地方の小さなスキー場なんかは応援しなければですね。
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