8月23日の雲海テラス 雲海と蝉の声
夜半のトマムは、穏やかな西風に乗って冷気が底へと沈み込む、静かな闇の中にありました。盆地をそっと満たしていったのは、鏡のように平らで重厚なトマム産雲海。やがて空がやわらかな朝焼け色に染まり、息をのむほど美しい静寂から今朝の幕が上がりました。
しかし日の出が近づくにつれ、大気は劇的な動きを見せ始めます。ちょうど雲の頭をかすめる絶妙な標高で上空と足元の風が擦れ合い、雲の表面に大きな波が生まれました。それまで静かだった雲頂が生き物のようにモコモコと躍動し、ヴェールのような雲がテラスを包んではサッと引いていきます。その気まぐれな雲の隙間から鮮烈なルビー色の太陽が顔を出した瞬間は、胸が震えるほどの美しさでした。
やがてテラスは視界200メートルほどの真っ白な雲の部屋の中へ。16度というひんやりとした冷気に包まれながら、頭上からは太陽がまるで大きなランプのようにあたたかな光を灯し、空間全体をぼんやりと優しく照らし出します。その静かな部屋に変化をもたらしたのは、山肌から突如として響き渡った一斉の蝉の合唱でした。太陽の熱で空気が温まり、雲が少しずつ解け始めたことを、生き物たちが真っ先に教えてくれました。
蝉の声に導かれるように雲のヴェールが鮮やかに引き、眼下にはどこまでもクリアなトマム産雲海の素顔が復活しました。西風が作り出した豊かな雲、風が交錯した絶妙な高さ、そして太陽の熱が雲をほどよく払った絶妙なタイミング。どれかひとつでも強すぎれば出会えなかった、奇跡のようなバランスの雲量がそこに広がっていました。対岸にそびえる日高山脈の雄大なシルエットまでがくっきりと浮かび上がり、完璧なフィナーレを迎えたのでした。
静かな西風から風の躍動、あたたかなランプが輝く雲の部屋、そして命の声と奇跡のバランスが導いた澄み切った絶景へ。すべてのピースが美しく噛み合った今朝の一期一会に深く感謝を込めて、本日はこのあたりで擱筆といたします。
雲海テラススタッフ 藤田




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