2025
Season
- photo:Masayoshi Harada,Yuko Okoso
- text:Chikara Terakura
- Published on:2021.12.21
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星野佳路と秋庭将之が語る
最高の雪とスキーの出会い
北海道パウダーベルト × VECTOR GLIDE
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- 星野佳路
- 1960年生まれ、長野県軽井沢町出身。家業である軽井沢の老舗温泉旅館「星野温泉」を引き継ぎ、1991年、代表取締役社長に就任。星野リゾートとして、全国各地のリゾート再生を手がける。現在、ラグジュアリーホテル「星のや」、温泉旅館「界」、西洋型リゾート「リゾナーレ」、都市観光ホテル「OMO」、ルーズに過ごせるホテル「BEB」のほか、スキー場(トマム、ネコママウンテン、Mt.T)運営など、国内外に73所の施設を展開する。年間滑走日数80日という大のスキー愛好家。
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- 秋庭将之
- 1967年生まれ。北海道札幌市出身。VECTOR GLIDEプロデューサー。3歳からスキーを始め、幼少期から競技スキーに打ち込み、アルペンスキーナショナルチームの高速系選手としてオリンピック出場を目指すが、膝の怪我で夢を断念。その後、プロスキーレーサー、全日本ナショナルデモンストレーター、スキークロス日本代表として国内外で活動。フリースキーへ活動を広げた後、2002年に「VECTOR GLIDE」をスタート。板だけでなく、ブーツ、ウエア、ワックス等も開発している。
秋庭さんと星野さん、
お二人の出会いは?
お二人の出会いは?
まずは、お二人の出会いを教えてください。
星野- 毎年夏前に開かれるスキーの早期受注展示会でお話をさせていただいたのが、最初でした。国内外のスキーブランドが一堂に並ぶなか、VECTOR GLIDEのブースに足を運ぶと、ずらりと並んだスキーの前に秋庭さんが立っていらしたのです。そのとき、一人の顧客として質問をしたのが始まりでした。
秋庭- よく覚えています。そのあとに、当時都内で展開していた直営店にも来ていただきましたね。星野さんがVECTOR GLIDEに乗ってくださっていることは以前から耳にしていましたが、まさかご本人が直接いらっしゃるとは思っていなかったので、本当に驚きましたね。
星野さんは、そうしたスキー受注展示会にはよく行かれるんですか?
星野- 毎年楽しみにしています。特に目的を決めて行くわけではないのですが、会場には多くのメーカーのブースに関係者が集まり、夏祭りの出店を歩くような賑やかさがある。その空気に触れるだけで「スキーの匂い」を感じられるのが楽しいんです。
秋庭- 雪上のイベントは別として、私にとってはVECTOR GLIDEに乗っていただいている方と直接お話できる貴重な場ですね。「どんなモデルに乗ってるんですか?」という会話から始まり、スキー談義で盛り上がるのが楽しいですし、こちらも刺激をもらえる機会だと思います。
星野- このスキーは自分に合うのかどうか、ホームページを読んでもわからない部分はありますよね。だからこそ、直接質問できるのが大きい。それにVECTOR GLIDEでは、開発し、テストし、販売するご本人から話を聞けるわけですから、説得力が違います。世界中の一流スキーブランドが並ぶ会場のなかで、作り手がその場にいるのは、秋庭さんくらいじゃないでしょうか。作っている人の顔がはっきりしているのは、VECTOR GLIDEのいいところですね。

初対面時について話す2人
無類のVECTOR GLIDE好きだった
星野さん
星野さん
星野さんがVECTOR GLIDEと出会ったきっかけを教えてください。
星野- もう10年以上前だと思います。あるスキー雑誌の取材でコロラドのスキー場に呼ばれたことがあったんです。その前の仕事がタヒチだったので、タヒチからコロラドへという、まるで映画「007」並みのシーン展開があったんですよ。そのとき、カメラマンが履いていたのが、「コルドヴァ」というVECTOR GLIDEの黒いスキーでした。彼は「スキーはこれしかない」と熱心に語っていて、それが最初の出会いでした。
それで購入されたのですか?
星野- そうです。念のため申し上げておくと、そのときの彼の言葉で購入を決めたわけではありません。人からどんなに勧められても、自分で滑ってみないとわかりません。ただ、気になるスキーがあれば、やはり自分で試してみたくなります。だから、ほどなくして購入しました。それが始まりで、そこからさまざまなモデルへと手を伸ばしていきました。
最初に滑ったときの印象はいかがでした?
星野- それまで履いていたヨーロッパ系のスキーと比べると、硬い印象がありました。ただ、硬いからといって滑りにくいわけではない。その性能が自分の実力に合っていたかどうかは別として、それ以上に「このスキーを履くことがカッコいい」という、自分への満足感が大きかったですね。当時はVECTOR GLIDEやコルドヴァについて徹底的に調べて、ウンチクまで頭に入れていました。まるで好きなブランドに憧れる若者のような気持ちでした。
秋庭- 私にとっては、星野さんが10年以上前に「コルドヴァ」を履かれていたことよりも、限定モデルの「バターナイフ ウルトラヘビー」、あの青と白のスキーを乗っていただいたことが強く印象に残っています。
星野- 「コルドヴァ」はVECTOR GLIDEのなかでは太いほうではないと次第にわかってくるんですが、そこからさらに太いモデルへと興味が広がっていきました。そのなかでも「バターナイフ」はデザインが素晴らしかった。白地にブルーで、さまざまな絵柄が描かれている。今でも相当気に入っていますよ。
「バターナイフ」の滑り心地はいかがでした?
星野- あのスキーは全体的にとても太くて、たしか足元の幅が130mmくらいあったはずです。
秋庭- そうです。130mmです!
星野- それでも不思議なことに、見た目ほど滑りにくさは感じないんです。トマムの圧雪コースでも問題なく滑れる。もちろんカービングスキーのほうが楽に滑れますが、「バターナイフ」には圧倒的な存在感があります。リフトで隣に座ったスキーヤーから熱い視線を浴びて、「この人、すごいんじゃないか?」という目で見られる。その優越感はたまりません(笑)。とはいえ、真価を発揮するのはやっぱり深くて軽いパウダースノー。だから、私の「バターナイフ」はいつも旭川に置いているんです。
北海道パウダーベルトは
スキーテストの適地
スキーテストの適地
個性的なラインナップを誇るVECTOR GLIDEのなかでも、パウダースノーを想定したファットスキーモデルは、旭川からトマムにかけての北海道パウダーベルトでテストを繰り返したと聞きました。そのあたりの理由を教えてください。
秋庭- 長野で立ち上げたブランドですから、最初は長野県内のスキー場やバックカントリーでテストしていたんです。硬くしまった圧雪コース、不整地、パウダースノーまで、さまざまな状況を滑って検証しました。ところが、北海道のパウダースノーを滑ると、浮力不足を感じたんです。長野のパウダーでは十分でも、北海道の軽い雪では足りなかった。そこで、これは北海道でもテストする必要がある、と考えるようになりました。
星野- 同じ北海道でも、ニセコでのテストは考えなかったんですか?
秋庭- 長野と比べれば、ニセコの雪質も軽いほうです。それでも旭川周辺とは比較になりません。僕らはニセコで試乗会を開いたり撮影をする機会が多いんですが、そのなかで「今日はいい雪だな」と思う日があっても、旭川から来たライダーの浅川誠は「重い」と言うんです。本当にそこまで違うのかなと思って旭川で滑ってみると、たしかに違う。
星野- その差は、気温や湿度が低いことですよね? 旭川は北海道内陸部なので、湿度の少ない乾いた雪が降る。
秋庭- そうだと思います。滑り出すと、スプレーが頭の上まで巻き上がるんですよ。それでも軽々としていてふわりと舞うから、まったく抵抗を受けずに進んでいける。そんな軽くてドライな雪は北海道パウダーベルトならでは。やっぱりニセコとも違いますね。

狩振岳 CATツアーで滑走する秋庭さん
星野- 長野と北海道でのテストの違いは、スキーの設計上でどう反映されるんですか?
秋庭- まずは、フレックスです。ターンで踏み込むとスキーはたわみ、ロッカー形状、つまり逆反りのカーブ状になります。パウダーではそれが抵抗となって浮力を生むのですが、たわみすぎると雪を受け止める面が広くなりすぎて進行を妨げます。だから軽く深い雪では、やわらかすぎないフレックスのバランスが大切なんです。
星野- ある程度、スキーを硬くするってことですか。
秋庭- そうですね。同時にスキーの幅や形状も考えます。深い雪で沈まないような浮力を得つつ、スムーズなターンができるような形状とフレックスのバランスが大切です。これらを入念に調整し、雪質や斜度、雪面のコンディションに左右されないスキーを目指します。
星野- なるほど。納得感があります。VECTOR GLIDEのファットスキーは、軽くて深い日本の雪に合わせているから、と海外の人にも説明できますね。
秋庭- そうです。日本の雪、とくに北海道の雪は驚くほど軽いので、抵抗の多いスキーではスピードが出にくい。だからこそ、一番楽しめるスキーで滑ってもらいたいと思っています。

スキー板の設計について語る2人
良質な日本のスキーの存在を
世界に知ってもらいたい
世界に知ってもらいたい
星野リゾートの3つのスノーリゾート(トマム、ネコママウンテン、Mt.T)では、VECTOR GLIDEのデモセンターが開設され、「OMO7旭川」ではプレミアムレンタルが用意されています。開設のきっかけや狙いを教えていただけますか。

星野リゾート トマム VECTOR GLIDE デモセンター
星野- 一流ブランドの上級者用スキーを高価格帯で貸し出す、いわゆるハイスペックなレンタルスキーがありますよね。その多くは欧米メーカーのスキーです。それが私たちとしては少し残念だったんです。やはり、日本のスキーのほうがストーリーもあって魅力的ですからね。そうした思いから始めたんです。
試乗会やレンタルとは違う、デモセンターのメリットはなんですか?
秋庭- まずは、VECTOR GLIDEのスキーとスノーボードのさまざまなモデルを試乗していただき、それぞれの乗り味をご自身で確かめられることです。1日のなかでサイズやモデルの違いを乗り換えて比較することもできます。実際に試乗した方が購入を決めるケースも少なくなく、その場合は試乗料金をキャッシュバックしています。VECTOR GLIDEを試してみたい方や、真剣に購入を検討している方にとっては、最良の機会になると思います。
星野- スキーは、店頭や受注展示会で説明してもらうよりも、やはり実際に雪上で履いてみるのが一番です。それにスキーにはファッション的な要素もあるので、それを履いてリフトに乗り、2〜3本滑るだけで、思いがけない新しい感覚を発見するかもしれません。
日本のブランドを応援したいという思いも込められていますか?
星野- もちろんです。日本には雪が多く降り積もり、スキーの歴史も長く、モノ作りにこだわる伝統が息づいており、スキーの芯材に使う木材も豊富です。だからこそ、かつて盛んだったように日本のスキーブランドが再び世界へ羽ばたいてほしいと思うんです。ヨーロッパやアメリカにはない発想から生まれた、良質なスキーがここにはある。その存在を広めたいし、応援したいと考えています。
その意味では、デモセンターの存在により、海外から来たスキーヤーの目にVECTOR GLIDEが触れる機会は多いわけですね。
星野- トマムではスキー場内で使えるだけでなく、狩振岳でのキャットツアーでも実際に試していただけるので、好評を博しています。社内からの評判もよく、次のシーズンに向けてモデルと台数を増やす準備を進めているところです。今は冬季のお客様の6〜7割が海外からの方ですから、知っていただけるチャンスはさらに広げていけると思います。
星野さんのスキーは
笑ってしまうくらい速かった
笑ってしまうくらい速かった
星野- いつも思うのは、VECTOR GLIDEをテストしているのは秋庭さんなんですよね。だから、秋庭さんが満足するくらいスピードが出るスキーって、私たち一般のスキーヤーにはどうなのかなと不安になるんです(笑)。
秋庭- いえいえ、それは誤解ですよ。VECTOR GLIDEが目指しているのは、深いパウダーでも、硬い圧雪でも、荒れた斜面でも、安定して滑ることができるスキーです。もちろん、スピードも大事な要素ですが、むしろご自身でコントロールしやすいはずです。それに、トマムでご一緒した限りでは、星野さんのスキーは遅いどころか、笑ってしまうくらい速かったですよ。
星野- あの日は、特別に気合いを入れたんですよ。秋庭さんと滑るから、と覚悟を決めて。
秋庭- ラインの捉え方や、フォールラインに迷いなくスキーを落とし込む様子など、相当滑り込んでいることは見てわかりました。

狩振岳 CATツアーで滑走する星野
星野- 滑り込んだという意味でいえば、今年は77日滑りました。滑り始めが去年の7月のニュージーランドで、滑り納めが今年5月の立山でした。
秋庭- スキーのために、何かトレーニングをされているんですか?
星野- 特別なトレーニングはしていません。2カ月以上滑らないことが、ほぼないので。夏はニュージーランドで2〜3週間、12月頭にはアメリカで滑ります。シーズン序盤に日数を稼いでおくと勢いがついて、その後が楽なんです。私はそれを「ロケットスタート」と呼んでいます。
秋庭- シーズンのロケットスタートっておもしろいですね。初めて聞きました(笑)。
秋庭さんの滑走日数は、シーズン何日くらいになりますか?
秋庭- う〜ん、数えたことがありません。スキーテストや撮影、全国各地での試乗会にも同行しますから……、でも、おそらく星野さんよりは滑っているかもしれません。
星野さんは何歳まで滑り続けようと
考えていますか?
星野- 三浦敬三さんが100歳まで滑っていたり、杉山進さんが90歳でスキーレッスンをされていたと聞きます。最近は、そうした方々を自分のロールモデルにしています。スキーのいいところは、ずっと続けられるところですよね。
秋庭- 年代や性別にもかかわらず。
星野- まさにその通り。それにスキーを通じて世界中を旅できますし、行く先々にスキー好きがいる。だからこそ、スキーは本当に素晴らしいスポーツだと思います。
